俺は旅に出るぞ。

俺が「ひと夏の冒険」だ。

「にゅう」日帰り登山  2022.9.12

2022/9/12

長野県茅野市 北八ヶ岳「にゅう」へ日帰りで登った。

 

俺の休日は、雨に潰されていた。

ここ数か月、一泊二日でテント泊の登山をしようと天気予報と睨み合いのメンチ合戦を繰り広げていたが、全てが幻想となり雨中へ消えていった。

仕事に明け暮れる死の中、俺は平日に一日だけの休みを確保することができた。

どこへ行こうかと頭を悩ませたが、俺の頭の中の日帰り登山行きたい山リストの上位に、北八ヶ岳の「にゅう」があることに気が付いた。

 

俺はにゅうの登山バッジを持っていた。

2020年9月、天狗岳に登った際に、特に理由は無いがなぜか天狗岳のバッジと一緒に購入していたのだ。

だが実際には登っていないのだから、ずぅっと頭の片隅でもやもやしていた。

5月か6月に、アズマシャクナゲを見ながら登ろうと思っていたが、これも休日が雨にやられ露(つゆ)と消えた。梅雨だけに。

そんなわけで、2年越しの想いを叶えるため日帰りに登山に最適な、北八ヶ岳・「にゅう」へと山入りすることを決めたのだった。

 

まずは登山ルートの選定だが、高見石小屋の揚げパンが有名らしいこと、てぬぐい限定デザインのやつがあるらしいことを理由に、高見石小屋経由を決めた。

無料駐車場がある麦草峠登山口→白駒池→にゅう山頂→高見石小屋→麦草峠駐車場

の麦草起点の時計回り周回ルートが最適だ。

 

ルートは決めたが、一番の問題は自宅から登山口までの移動距離である。

北八ヶ岳諏訪湖の東側に位置し、俺の自宅がある静岡県富士宮市からは約140km、3時間30分、休憩を入れて4時間はかかる。

日帰り登山で出かける距離じゃねえな…と怯みかけるが、そんな気持ちではどこにも行くことはできない。

行けるかどうかわからねェんじゃねえ。行くんだよ。

というわけで午前2時に出発、休憩をとりながらも運転を続け、午前6時ごろ麦草峠公共駐車場に到着した。

日はすでに昇っている。

天候は晴れ。空気は澄んでいる。清々しい朝だ。

・・・眠すぎるが。

 

駐車場はそこまで混んでおらず、駐車スペースも十分あった。

支度をしていると次々と車が入ってきた。

平日でもそこそこ人は入る。

やはり人気のある山のようだ。

駐車場では、車を降りたひとりのおじさんが、

「あーー!!登山リュックとか荷物全部を玄関に置いてきちゃったーーー!!!靴も!!!水も!!!あーーーーー!!!」

と絶叫していた。

かわいそうだが笑っちまった。んなことあるか!?!?

でも俺もやっちゃいそうだぜ…マジで。と思ったりもした。

グループでの登山だったらしく、他の仲間から水をもらうことにしたようで、おっちゃんは空身のまま楽しそうに仲間とともに登って行った。

たくましい。

俺だったらちょっと泣いて帰る。

時刻、午前6時30分。

麦草峠より登山開始。

駐車場脇のちょっとした路から森の中へ入って行く。

駐車場から登山口へ入る瞬間というのは、なんだかアドレナリンが出る感じがして好きだ。

ワクワクする。

麦草ヒュッテから草原に入り、分岐を白駒の池方面に進んでいく。

――静寂の中、苔の森へ分け入る。

「黒曜の森」・「白駒の奥庭」・「もののけの森」

次々と苔の森のステージを進んでいく。

苔むした周囲の原生林や木の橋、時折聞こえる鳥の鳴き声やゲームの世界のような森の名前、それらすべてが合わさり現実感が無い異世界にいる感覚となる。

特に周囲一帯の苔の世界は圧巻だ。

白駒湿原・青苔荘を通り過ぎ、白駒池のほとりを歩く。

登山道は木の板で道を作ってあったり(これは雰囲気が抜群に良い)、迷う個所は無く歩きやすい。

が、前日までの雨でところどころに超・ぬかるみが発生したりしていて油断ならない。

結構埋まるので沈まないところを見極めながら進む。

雨のおかげで地面はヤバいが、苔の緑色が生き生きとしていて美しい。

分岐路では有名?な「ニウ」・「にう」・「ニュー」・「にゅう」の文字。

程よい疲れをスパイスに、にゅうの森を全身で味わっているうちに、山頂へと到達した。

時刻は午前9時。

丁度良いペースだ。体力も余裕がある。

日帰り登山はテント泊登山に比べ、荷物の量が圧倒的に少ないのが最大の長所だ。

疲労度が段違いである。

それにしても素晴らしい眺めだ。

周りの山々を一望できる。

うっすらと富士山が見える。

俺は富士宮市に住んでいるため、富士山など毎日間近でみているが、遠くから望む輪郭程度の薄ゥーーい色の富士山も大好きだ。

雄大で迫力ある姿か、果敢無げながらも威厳ある姿かの違いだ。

どちらも雅だ。

高見石小屋の揚げパンが狙いであるため、少しだけ栄養補給(グミを食う)して山小屋方向へ下る。

下ったり登ったりのアップダウンを繰り返す。

多分駐車場から山頂よりも、山頂から山小屋の方が距離があると思う。

体感では間違いなく長い。

午前10時30分。

中山展望台で景色を楽しみながら少し休んだ。

ここも山が見渡せて眺めが良い。

特にこの日は大きな雲がたくさんあって、油絵絵画の中にいるようだった。

午後12時00分。

疲労がたまりながらも高見石小屋へたどり着いた。

やはり山小屋へ着くと安心感と達成感がある。

一区切りといった感じだ。

早速小屋の売店へ向かい、登山バッジと手ぬぐい、そして揚げパンを2種類購入した。

山小屋のお兄さんはたった一人で切り盛りしているようで、ハイパー忙しそうだった。

俺だったら発狂してる。

揚げパンは軽い感じで、ペロリと食べられた。

焼きたてだから熱々でサクサクでジュワジュワ。

美味すぎる。4種セットでもいけたかもしれない。

俺は体力が回復しそうなゴマとチーズにした。

とても香ばしく、疲れた身体に染み入った。

目当ての品はゲットした。

よぉーーし!下山じゃい!!!

遅くなると帰宅時間も遅くなる。

日帰り登山のデメリットはこれだな。

遅くなるとあせっちまう。良くねえぜ。

13時30分

麦草峠駐車場に帰還。

6時30分に登り始めたので、行動時間は休憩含めて7時間。

疲労度も経過時間も丁度良い感じだ。

近くの温泉を調べて、尖石の湯という秘湯っぽいところが見つかったのでそこへ向かう。

本当にザ・秘湯という雰囲気。

源泉かけ流し・自然の只中にあるためシャンプー・石鹸は使用不可の求めていた最強の温泉に入った。

薄緑色の硫黄臭のするにごり湯に浸かる。

疲れがどんどん消えていく…気がする…

ゆっくり浸っていると、どんどんお客さんが増えてきた。

湯場も狭いので撤退する。

また4時間近くかけて自宅に戻った。

4時間運転→7時間登山→4時間運転は死んじまう… が、

――とても心地良い山行だった。

苔まみれの神秘的な森・途中にある雄大な湖・山々を見渡せる山頂・おいしい焼き立てパンの山小屋・最高の隠れ秘湯。

登山の魅力が最大限に濃縮還元されている、日帰り登山に最適な山という感じだ。

苔が主役の山だから、雨が降っても楽しめるのではないだろうか。

また、シャクナゲの季節にでも来てみよう。

雨の天気も許してやるよ。

 

OLYMPUS PEN-F

MEIKE T2.2/25mm Cinema Lens

 

~fin~